犬は人間と一緒に暮らしてきた歴史が長いため、人間と犬を同じような動物に感じている人も多いことでしょう。
そして、確かに人間と犬では、特に食に関しては似ている部分も多くあります。その証拠に、人間が食べられるもののうち多くは、犬も食べることができます。
ただ、味覚の場合、人間と犬では異なる部分があります。そのため、人間にとっては魅力的な食べ物でも、犬にとってはそうではない場合が多いものです。
そこで、この記事では犬の味覚について解説していきたいと思います。
鈍いが6つの味を感じられる
犬は人間より味覚が鈍いですが、甘味、苦味、酸味、塩味、うま味それから水味を感じることができると言われています。
ちなみに、水味とは、水のイオン濃度を感じることができる味覚のことです。
味覚の仕組み
そもそも、味覚はどのような仕組みになっているのでしょうか。この項では、人間でも犬でも共通の、味覚の仕組みについて見ていきたいと思います。
人間にも犬にも五感がありますが、味覚は大切な五感の1つです。
動物は味覚があることによって、「おいしい」と思えば食べ続け、「まずい」と思ったら食べるのをやめることができます。
そして、「まずい」食べ物は体にとって毒であることが多々あります。つまり、動物は味覚により毒物を見わけることができているのです。
そんな味覚には、甘味、辛味、苦味、酸味、塩味、うま味の5つの基本味があると言われています。
さて、次はもう少し具体的に味覚の仕組みについて見ていきましょう。
口の中に食べ物が入ってきて、それが咀嚼(そしゃく)によって細かくなると、食べ物の組織が破壊され、これが唾液と混ざります。
ちなみに、破壊された組織は唾液の中でイオンや分子の状態になります。
そして、この分子やイオンが舌にある味蕾(みらい)で感知されると、動物は味を感じることができるのです。
ちなみに、昔は甘味が舌の先端で感じられる、など舌の異なる部分でそれぞれの味を感じる「味覚地図」の存在が信じられてきましたが、この説は現在では否定されています。
現在では、ひとつの味蕾ですべての基本味を感知することができると言われているのです。
人間と犬の味覚の違い
人間と犬では味覚に違いがあります。
人間の味蕾が9000個ほどあるのに対して、犬には1700個ほどしか味蕾がないのです。そのため、犬は人間よりも味覚が鈍いと言われています。
ちなみに、犬は人間よりも味覚が弱いかわりに、嗅覚が発達しています。
具体的には、犬は人間の10倍の嗅覚細胞を持っており、嗅覚の感度は100万~1億倍であると言われています。
そのため、犬がえさを食べるときに大事にするのはニオイです。その証拠に、犬は食べ物を食べるときに必ずと言っていいほどニオイをかぎます。そして、犬はニオイの次に食感、その次に味覚を大事にすると言われています。
そして、犬は人間と同じように5つの基本味をすべて感じることができると言われています。
その上、人間には感じられない味も感じることができます。それは「水味」と呼ばれるもので、犬は「水味」で液体のイオン濃度を感じることができると言われています。
犬の食性
犬の食性は人間と異なります。
犬は食べ物を飲み込むように食べることが多いですが、それは犬がもともと群れで自分よりも大きな獲物を狩猟していたからです。弱肉強食の世界では狩った場所が安全な場所ではない場合もあります。
そのため、安全に食べられない場合には食べ物を一度飲み込んでしまい、安全な場所に行ってから吐き出してもう一度小さく噛みちぎって食べていたのです。
また、群れで狩りをする生活では、獲物がいなければもちろん食事を手に入れることはできませんし、天敵がいる場合には獲物がいても食事にありつくことができません。
そのため、1回の食事から次の食事までの間隔はどうしても開いてしまいます。そして、食事にありつけたときに食べれるだけ食べるのです。
このことから、犬は現在でもえさは出された分だけ食べます。
ただ、現在人間に飼育されている犬が獲物を狩ることはありませんし、1回1回の食事の間が空いてしまうこともあまりありません。
そのため、犬の本来の食事スタイルに合わせてあげる必要はありませんし、早食いは犬の体にもよくありません。
犬のえさは1日2回程度にわけて与えるといいでしょう。
犬が感じられる味
犬が感じることができるのは、以下の6つの味です。それぞれ見ていきましょう。
甘味
犬はA群レセプターという味蕾の中にある受容器で甘味を感じることができます。A群レセプターが糖に反応することで、甘いと感じるのです。
犬は特に果物や砂糖などに含まれているショ糖などの甘さ、アミノ酸の甘さなどに敏感です。
ちなみに、犬がショ糖の甘さに敏感なのは、犬が雑食であり、果物なども積極的に食べて生活してきたからです。
完全に肉食である猫は甘味を感じることができないと言われています。
また、アミノ酸の中には甘い味がするものも多いですが、これを犬が感じられるのは、犬の主食である肉や魚などの動物性タンパク質源にアミノ酸が多く含まれているからです。
そして、犬は甘い食べ物が大好きです。しかし、犬が糖分をとりすぎてしまうと歯周病や肥満などの原因になってしまいます。犬に甘い物を与えすぎないようにしましょう。
酸味
犬は甘味ほどではないですが、酸味も感じることができます。C群レセプターという受容体で感知します。
そして、レモンやみかんなどニオイが強くて酸味も強いものは苦手ですが、弱い酸味を持っているものは好む傾向にあります。
ちなみに、これは犬が腐った肉も食べる動物であったことが原因であると言われています。
犬は一度に食べきれない肉を土の中にうめて、空腹のときに食べていたのですが、土の中で腐った肉もお構いなしに食べていたのです。ただ、あまりにも酸味が強く腐敗が進んでいる肉は危険なので、強い酸味は苦手になったと考えられます。
苦味
犬は苦味をA群レセプターで感じることができます。
そして、これは犬だけではなく、哺乳動物全般に当てはまる話ですが、苦味は苦手です。
これは、苦味のあるものは毒であることが多く、苦味があるものは避けてきたからだと言われています。
塩味
犬は塩味を感じることができますが、塩味だけを感じることができる受容器は存在しないと言われています。
ちなみに、これは犬が雑食ながら、肉食よりの動物であることが関係していると言われています。
野生環境で獲物を捕らえると血液や体液も一緒に摂取することになりますが、血や体液には塩分が含まれており、肉さえ食べていれば犬が塩分不足になることはありませんでした。
そのため、塩味に対して鈍感でも、特に困ることがなかったのです。
ただ、鈍いとはいえ、犬は塩味の強い食べ物が大好きです。そして、犬に必要な塩分の量は人間の1/3程度と言われています。
そのため、犬に塩分を与えすぎてしまうとすぐに塩分のとりすぎになってしまいます。そして、犬が塩分をとりすぎてしまうと心臓や腎臓に負担がかかってしまい、さまざまな病気の原因になってしまいます。
注意しましょう。
うま味
うま味は、以前は犬は感じられないとされていましたが、近年の研究で、犬でもうま味を感じることができるということが明らかになってきました。
主にC群レセプターという受容体が反応すると言われています。
ちなみに、うま味はアミノ酸が関わっていることが多いと言われていますが、犬は特にアラニン、プロリン、リジン、ヒスチジン、ロイシンなどの甘いアミノ酸を好むと言われています。
水味
水味は人間には感じられないため、想像が難しい味ですが、犬は水味で水のイオン濃度を感じていると言われています。
ちなみに、イオン濃度は水にほかの物質がどれだけ溶けているか図る指標です。イオン濃度はほかの物質がたくさん溶けているほど高くなり、あまり溶けていない場合は低くなります。
たとえば、水に塩分がたくさん溶けていればイオン濃度は高くなりますし、あまり溶けていなければ低くなります。犬にはそんなイオン濃度が味覚として感じられるのです。
ちなみに、犬は汗をあまりかかないため、塩分を尿などから排出することが多いですが、体の中の塩分濃度を一定に保つことで、塩分不足や塩分過多を防いでいると言われています。
つまり、体の中の塩分濃度が高い場合には、水をたくさん摂取し、低い場合には水の摂取を控えて体内の塩分濃度を一定に保っているのです。
そのため、犬に減塩の食事を与え続けていると思わぬ結果を招いてしまう場合があります。犬が水分をあまり摂取しなくなってしまい、脱水症状になってしまうかもしれないのです。